家庭内野良猫カツオの話② ― カツオ病院へ行く

 それにしても、この2匹は一体どうやって仲良くなったのか!?
確かに、一般的に猫のメスは排他的で面倒見がよいのはオスと言われています。もともとタマはケンカが弱く、近くの餌場の縄張り争いに負けて他の猫がいないその公園に住み着いたらしいのです。その後、その公園に捨てられた生後半年ほどのカツオがタマの後をくっついて歩くのにそう時間はかかりませんでした。
 タマにとっては自分より力のないオス猫に対しては安心感があったのかもしれません。一方、カツオは野良道の先輩でもあり、もともと人馴れしているタマと一緒に行動することで食べものにありつく事が出来ていたのだと思います。

 さて、保護してからはカツオとなんとか仲良くなりたい一心で、おもちゃや紐でじゃらしたり美味しいご飯でご機嫌を取ったりしました。そして、何より穏やかな声を心がけて毎日話かけたものです。例えば、その日にあった出来事の報告や世間話をするなど。まぁ、すべて一方的ではありましたが 笑
 やがて、カツオもその時間は少し離れたところに香箱座りをして、目を細めてはゆっくりとまばたきをしたり、時にはあくびをしながら私の話に付き合うようになりました。そのしぐさから恐らく私に敵意は無いであろうことはわかりましたが、結局それ以上の距離は縮まりませんでした。きっと、カツオも自分が体験した強烈な人間への恐怖心から、どうやって仲良くなったらいいのかわからなかったのかもしれませんね。

 そんなカツオを見ていて『触れなくてガッカリなのは人間側の都合なんだな。無理な事はしない、カツオが元気で楽しく長生きしてくれればいいよ』と思うようになりました。しかし、最初の試練は保護して2年ほど経ったときです。無理をしなければならない事態に直面しました。
 カツオが、前日から何度もトイレで叫んでは嘔吐を繰り返してグッタリとしています。どうやら激しい便秘のようです。猫の便秘は巨大結腸症という病気にもなりかねないのでとても深刻です。「捕まえなくては!!」しかし、どれだけグッタリとして調子が悪くともまだ若いカツオは激しく威嚇し、まるで忍者の如く高いところを飛び移っては、毛布を広げて追い詰める私を難なくかわして一向に捕まりません。

 食欲がないためご飯で気を引くこともできず、そもそも築けていない関係性が更に悪化するばかり。そんな体調でも常にアンテナを張って鋭い目つきでこちらの動きを観察しています。しかも、一度も切った事の無い「爪」という武器も備えています。
 実は、過去に猫に噛みつかれてひどいけがを負い、破傷風の注射を打つという経験を3度もしている私は、内心では猫の激しい威嚇に恐れをなしていました。しかし、時間がかかるほどに具合の悪いカツオにストレスをかけてしまっている事に焦りが募ります。

 翌日、ありがたいことに猫の保護活動をしている友人が応援にかけつけてくれて、全身フル装備のうえ捕獲してくれました。恐怖のあまりオシッコとよだれをまき散らしながら逃げまどっていたカツオが、捕まったキャリーの中で息を殺して石みたいに身を固くしているのを見て、可哀そうだけどこれはカツオのためなんだと自分に言い聞かせました。

 当然ながら、そもそも飼い主ですら触れない猫の診察は断られがちです。洗濯ネットに入れて連れてきてくださいというのがほとんどです。洗濯ネットに入れられるくらいなら最初から苦労はないのですが・・・。 
 連れて行った病院は、野良猫の保護活動に積極的な事でメディアにも登場したこともある病院でしたので、さぞかし手慣れているだろうと安心していたのですが、結局は鎮静剤を注射して朦朧(もうろう)とした状態で浣腸をするという処置でした。骨盤が狭いから摘便はできないとの理由からです。
 わたしも当時は触れない猫の扱いや便秘について無知と経験不足だったこともあり、こういう場合は対症療法しかないのだと思っていました。そして、その後の数年間は可溶性繊維のフードを与え、少しでも便秘の兆候がある時は早めに下剤を使うなど細心の注意を払いました。

 しかし、今になって思えば、せっかく鎮静剤まで打ったのだから、あの時せめて血液検査をしていたら腎臓病の脱水による便秘という原因に気付けていたのに・・・と、後に深く後悔する事になるのです。 ーつづく

【ご報告】カツオが2021年7月27日に永眠しました。応援してくださった皆様ありがとうございま。最期まで家庭内野良猫道を貫いた約12年の生涯でした 。

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